ジブリ映画『魔女の宅急便』で松任谷由実さんの『ルージュの伝言』が使われている理由を考察しています。
こんにちは、よしぞうです。
どうして『魔女の宅急便』に松任谷由実(荒井由実)さんの『ルージュの伝言』が使用されているのか、ずっと謎でした。
歌詞の内容が映画のイメージにも合いません。
今回はそんな謎を考察してみたいと思います。
汚れた大人のよしぞうが考えることなので(笑)、受け入れられないジブリファンもいるかもしれませんが、ご容赦くださいませ。
『ルージュの伝言』は松任谷由実さんのアルバム(荒井由実名義)『COBALT HOUR』に収録されています。
目次:
- 結論:未熟なキキと汚れた世界を示唆
- 鈴木敏夫氏の発言からは理由が見えない
- 人生は良いことばかりではない
- 相手のママに頼る女性
- 「ルージュ」つながりの言葉あそび
- エンディング曲『やさしさに包まれたなら』で全てを受け入れるキキ
- ユーミンも魔女だった
- まとめ
結論:未熟なキキと汚れた世界を示唆
『魔女の宅急便』で『ルージュの伝言』が使用されている理由は下記のような理由ではないかと考えました。
- 先輩魔女が降りていく街が歓楽街
- キキの受難を前もって暗示している
- 歌詞に出てくる女性が人間として未熟
- 「ルージュ」つながり
詳しくは後述しますが、上記のような理由があるのでは?と考えました。
「キキの未熟さ」と「人生のダークサイド」を暗示していると思います。
詳しく解説します。
鈴木敏夫氏の発言からは理由が見えない
『魔女の宅急便』で『ルージュの伝言』が使われた理由を検索してみると、松任谷由実さんと鈴木敏夫氏(ジブリのプロデューサー)が対談している内容が沢山出てきます。
対談では、「1年以上待ってもユーミンが書き下ろしの曲を作れなかったので、ユーミンの曲の中から『ルージュの伝言』を選んだ」という話が出てきます。
話はそこで終わってしまい「なぜ『ルージュの伝言』なのか?」については触れられていません。
当時でさえユーミンは20枚近いアルバムを発表し、膨大な楽曲をリリースしています。その中から『ルージュの伝言』を選んだわけですから、必ず明確な理由があるはずです。
しかも宮崎駿さんですよ。人一倍こだわりのある宮崎駿というクリエイターが適当に曲を選んでいるとは思えません。
きっと公式に言えない理由があるのではないかと思われます(笑)。
人生は良いことばかりではない
今回、『ルージュの伝言』について考える際、参考にしたのが岡田斗司夫氏のYouTubeチャンネルです。
YouTube
魔女の宅急便「先輩魔女の素性と秘密」を描かれている画だけで読み解く
動画の中で岡田氏は「先輩魔女が降りていく街は赤い風車(ムーラン・ルージュ)がある街」という旨の説明をしています。
なるほど、映画のこのシーンをよく見ると、先輩魔女が降りていく街には大きな風車があります。
『ムーラン・ルージュ』がある街、つまり歓楽街です。日本で言えば歌舞伎町のような街。キキが見たら目を背けるであろう街です。
先輩魔女はここで恋占いをしていると言っています。確かにこういう街での恋占いなら、歓楽街で働く女の子とその子目当てで来る男性客には受けると思います。
ひょっとしたら、先輩魔女はそういった客に対してわざと良い占い結果をだして多くの報酬を貰うなど、ずるいことをしているかもしれません。
女性が独り立ちするために出てきた都会には、こういった汚れた側面もあるのです。キキが夢見るような素敵な街ばかりではありません。
人生のダークサイドを歌っている歌詞
『ルージュの伝言』の歌詞を知っている人は、この曲が『魔女の宅急便』で使われていることにかなり違和感を感じていたと思います。
なんで『ルージュの伝言』? 浮気された女性の歌だよ?? と・・・。
『ルージュの伝言』は、キキが地元から旅立ってすぐに流れます。キキは期待に胸を弾ませて夢一杯な状態です。
歌詞にあわせるなら、恋愛に期待を抱いて目をキラキラさせている若い女の子のような状態です。まさか相手に浮気されるなんて思ってもいません。。。
そんな夢一杯のキキのところに先輩魔女が登場し、少し訳ありな感じで『ムーラン・ルージュ』がある歓楽街に降りていきます。
結婚や恋愛というのは、最初は「幸せ」な側面だけを考えがちです。ですが、その裏には、嘘や浮気などが隠れています。
人生にはダークサイドもあるのです。魔女の世界も同様です。
『ルージュの伝言』が採用された理由は、「世の中にはキキが思い描いているような幸せばかりじゃないよ」という意図があるのではないでしょうか。
実際にこの後、キキは街に着いてからいきなり警官に追われ、チャラ男のトンボに付きまとわれ、ニシンのパイの女の子による塩対応に打ちのめされてしまいます。
『ルージュの伝言』はキキが今後経験する人生の暗部を暗示している曲なのです。
相手のママに頼る女性
『ルージュの伝言』に出てくる女性に注目してみましょう。
この女性は相手のママにお願いして男性を叱ってもらおうと考えています。
明日の朝ママから電話で
『ルージュの伝言』の歌詞より引用
しかってもらうわ my darling!
つまり、自分では問題を解決できず、相手のママに頼る必要がある未熟な人間です。
「成長した大人の女性」ではありませんね。
この曲が流れるシーンのキキはまだ地元から出てきたばかり。ついさっきまではパパに「高い高いして」と甘えていた女の子なのです。
まさに、未熟な女の子です。
キキは『魔女の宅急便』のストーリーの中で徐々に成長していきますが、この時点の未熟なキキには『ルージュの伝言』の女性像がピッタリあうレベルなのでしょう。
「ルージュ」つながりの言葉あそび
先程述べたとおり、先輩魔女が降りていく街に『ムーラン・ルージュ』があることも、『ルージュの伝言』を選んだ理由の1つだったのかもしれません。
「ルージュ」つながりの言葉遊びですね。
エンディング曲『やさしさに包まれたなら』で全てを受け入れるキキ
エンディングで流れる『やさしさに包まれたなら』には、下記のような歌詞があります。
目にうつる全てのことは メッセージ
『やさしさに包まれたなら』の歌詞より引用
辛いことも経験し、1歩成長したキキは「この街が好き」と親に手紙を書きます。
「この街」という言葉には、この街で起こる「良いこと、嫌なこと」どちらも含まれます。
その全てを受け入れることができる人間になりました。
今のキキは「嫌なことも含め、目に映る全てのことは自分を成長させるメッセージであり、そこには何らかの意味が含まれている」と感じているのではないでしょうか。
劇中にもそう思わせるシーンが描かれます。
エンディングのバックに流れる映像では、トンボの仲間の女の子と店の中で話すシーンもあります。良い印象をもっていなかった相手も受けいれられるようになっています。
残念ながら、話す相手はニシンのパイの子ではないようです。まだ彼女を受け入れるほど成長していないのかもしれません。
『やさしさに包まれたなら』は、松任谷由実さんのアルバム(荒井由実名義)『MISSLIM』に収録されています。
ユーミンも魔女だった
『ジブリの教科書5 魔女の宅急便』という書籍によると、松任谷由実さんのデビューアルバム『ひこうき雲』(当時は荒井由実名義)には、下記のようなキャッチコピーが付いていたそうです。
魔女か! スーパー・レディか! 新感覚派・荒井由実 登場!!
『ジブリの教科書5 魔女の宅急便』P206より引用
たしかに「魔女」というイメージはありますね。天才肌で浮世離れした雰囲気は、他の女性ミュージシャンとは違う世界にいる感じです。
同書籍には、ユーミンと宮崎駿監督の対談も掲載されており、宮崎監督は下記のように述べています。
松任谷さんの歌を聴いてきて、この人は一種の魔女じゃないかと思いました。
『ジブリの教科書5 魔女の宅急便』P193より引用
『魔女の宅急便』にユーミンの歌が採用されたのは、こういった「ユーミン=魔女」のイメージもあったのかもしれません。
高畑勲氏が語るユーミンが採用された理由
『魔女の宅急便』ではジブリの高畑勲監督が音楽演出を担当しています。
彼は、同書籍の中でこう語っています。
キキという都会生活に憧れるふつうの女の子が、ふだん聴くとしたらどんな歌だろう、(中略)それはやはりユーミンじゃないだろうかという結論になったわけです。
『ジブリの教科書5 魔女の宅急便』P160より引用
なるほど、確かに『魔女の宅急便』が製作されていた80年代後期のユーミンというのは絶大な人気があり、女子大生やOLのカリスマにして、オシャレな都会生活の代名詞でありました。
若い人は想像できないかもしれませんが、ほんと、そのブランド力とカリスマ性が凄かったんです。
なので、都会の生活を夢見ている女性が聴く音楽として劇中に流れるのは納得です。
ユーミンの楽曲が採用された一番の理由はこれなんだろうなと思います。
ユーミンはウルスラに共感
そんなユーミン本人は宮崎駿監督との対談の中で、映画の主人公キキよりも森の中に住んでいる絵描きのウルスラに感情移入したそうです。
映画の中で、飛べなくなったキキにウルスラが下記のようにアドバイスするシーンがあります。
そういう時はジタバタするしかないよ
『魔女の宅急便』ウルスラのセリフより引用
描いて 描いて 描きまくる
ユーミンも若い頃は何も考えずにインスピレーションで歌詞を作ることが出来たそうですが、いつのまにかそれが出来なくなったそうです。
そんな時に書いて書いて書きまくるしかないと思ったそうです。
そんな経験があるため、ウルスラのセリフが心に響いたのでしょう。
インスピレーションで歌詞を作ることが出来たというのは、キキが何も考えずに飛べた頃と同じで興味深いですね。
やっぱり魔女っぽい(笑)。
ここで紹介した書籍『ジブリの教科書5 魔女の宅急便』には、様々な人が『魔女の宅急便』を考察しているので読んでみると面白いですよ。宮崎駿監督へのインタビューなども載っています。
まとめ
以上、『魔女の宅急便』で『ルージュの伝言』が使用されている理由を考察してみました。
もちろん、別の意見を持つ人もいるでしょう。それでOKです。映画は見た人の数だけ解釈があります。それが芸術作品の良いところです。
検索しても同じ内容ばかり出てくるのは面白くないですしね。
『魔女の宅急便』をもう1度見たくなった人は、下記のブルーレイをどうぞ。映像特典も収録されています。